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秋田家庭裁判所 昭和48年(家)386号 審判

申立人 渡辺キリ(仮名)

事件本人 渡辺智子(仮名) 昭三五・一〇・二四生

主文

当裁判所が昭和四八年六月五日なした「事件本人が被相続人渡辺行夫の遺産の分割を協議する行為に関し事件本人渡辺智子の特別代理人として

本籍ならびに住所 秋田県○○郡○○町○○字○○△△△番地

渡辺智洋

を選任する」との審判は、これを取消す。

理由

準再審申立人は、主文同旨の審判を求め、その理由として、申立人は本件特別代理人選任の申立をしたことも第三者にその手続を委任したこともなく、上記申立は代理権のない何者かが勝手に申立人の名を冒用してした無効な申立であるから、これに基づいてなされた本件特別代理人選任の審判は、民事訴訟法第四二九条の規定を準用して取消さるべきものであると述べた。

よつて、検討するに、本件特別代理人選任申立事件記録、亡渡辺良太郎の原戸籍謄本および申立人渡辺キリ、証人渡辺智洋、証人渡辺伸夫の各審問の結果を総合すれば

(1)  事件本人の父行夫は昭和三八年一〇月二四日死亡したところ、その後祖父良太郎の死亡により事件本人が代襲相続人として、亡父の兄伸夫、亡父の弟良紀、同良隆らと共に祖父良太郎の遺産相続人となつたこと

(2)  その後、亡良太郎の遺産の一部山林約五反五畝歩を○○郡○○町の目黒某に代金約一〇〇万円で売却する話がまとまり、上記相続人全員を売主とする売買契約書を作成するにあたり、主として売主側の代表者としてその渉にあたつていた事件本人の伯父伸夫が、自分以外の相続人らから印を預り必要書類に押印したうえその手続一切を仲介人たる不動産業者に一任したこと

(3)  事件本人の伯父伸夫から不動産業者に対する上記委任事項の中には、本件特別代理人選任申立の手続も含まれていたものであるところ、このことは一言も申立人に知らされていなかつたこと

(4)  したがつて、申立人は当裁判所から特別代理人選任の審判書謄本の送達を受けてはじめて本件申立がなされていることを知つたこと

(5)  また、本件特別代理人候補者渡辺智洋は、伸夫が親族中から適当に選んで依頼したものであり、これまた申立人に連絡の上同人の了解を得たものではなかつたこと

以上の事実が認められる。そして、これによれば本件申立は申立人がしたものではなく、上記売買契約を仲介した不動産業者がしたものというべきところ、不動産業者に申立手続を委任した渡辺伸夫にも、同人から委任されて本件申立の手続一切をした不動産業者にも、申立人名義をもつて本件特別代理人選任申立をする権限がなかつたこと明らかであるから、民事訴訟法第四二〇条第一項第三号、第四二九条の準用によつて本件特別代理人選任の審判は取消しを免れない。

よつて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 石井健吾)

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